SY1　
精神科薬物療法におけるポリファーマシーのマネージメント

近年、精神科領域における薬物療法は多様化・複雑化しており、本邦の薬物療法は、世界的にも類を見ない向精神薬の多剤大量投与が重要課題となっている。この多剤大量投与に関連する錐体外路症状や自律神経系副作用に対して抗パーキンソン病薬や内科薬が併用され、処方カスケードによる処方薬剤数のさらなる増加という悪循環が発生することが懸念される。2016年に行われた向精神薬処方に関するアジア国際共同研究の調査において、日本は調査に参加したアジア15か国・地域の中で向精神薬の多剤大量投与の件数が最も多いことが明らかにされている。統合失調症、うつ病、双極性障害、睡眠障害などにおいて、向精神薬の単剤療法で効果が得られない場合、薬剤の切り替え、増強療法、あるいは併用療法などで対処するが、多剤処方を招く。多剤処方に起因する薬物有害事象のリスク増加、服薬アドヒアランス低下などはポリファーマシーの問題として対策を講じる必要がある。特に、抗精神病薬、抗うつ薬、気分安定薬、ベンゾジアゼピン系抗不安薬・睡眠薬は減量や中止に伴う症状悪化や離脱症状が課題となる。そのため、医療者は向精神薬の適切な減量・中止のスキルを習得し、より適切な薬物療法を実施していく必要がある。現在、向精神薬の減薬・減量の方法の１つとして、抗精神病薬の減量法であるsafety correction of high dose antipsychotic polypharmacy（SCAP）法による減量プロトコールが推奨されている。しかしながら、抗うつ薬、気分安定薬及びベンゾジアゼピン系薬などの向精神薬の漸減・中止の方法に関しては十分なエビデンスを持つガイドラインは存在せず、経験に基づいた減薬・減量が行われている。適正なポリファーマシー対策においては、個々の患者にあった治療法を選択し、患者が納得する治療選択を行っていく必要がある。これにより、服薬アドヒアランスの向上、臨床的に意義のある真のアウトカムである、再発・再燃、再入院の防止及びQOLの向上、ひいては患者個々が目指すリカバリーが期待できるものと思われる。本シンポジウムでは、特に多剤処方で問題となる統合失調症、うつ病、および睡眠障害の治療におけるポリファーマシー対策について取り上げる。

SY2
Bar ProvaでDI活用入門〜教授と一緒に聞き耳を〜

ようこそ、Bar Provaへ。日本精神薬学会編集委員会では、学会員会誌にて毎号、「DI&コミュニケーションBar Prova」のコーナーで精神科薬物治療にまつわるDI情報を発信しています。ここでは、主に向精神薬の新薬に関する情報を読者がより身近に感じてもらえるよう、登場人物を設定し、会話方式でDI情報を展開しています。では実際に、自分が情報収集して伝える側になった時、どのような方法で欲しい情報を入手しているでしょうか。
地域包括ケアシステムが推進されている現在、精神障がい者や高齢者も地域の中で生活をし、複数の医療機関を受診する機会が増えています。その結果、病院には種別を問わず多種多様な医薬品が入院時に持ち込まれることとなり、薬剤師は普段取り扱ったことのない医薬品の情報収集も行うことになります。医師への処方提案や他職種への情報提供、患者や家族への説明も、医薬品や疾病に関する情報収集なしでは成り立ちません。また、病院を退院して在宅や施設などへ生活環境が変わっても、安全で安心な薬物治療が継続されるよう、病院と保険薬局間、生活支援に関わるスタッフと情報共有することが強く求められています。しかしながら、精神科に係る医療スタッフの人員は十分ではないため、情報収集や共有は効率性や作業の容易さなども必要となります。
そこで本シンポジウムでは、情報収集のエキスパートの先生方が、普段どのようにして検索、吟味、伝達をしているかなど、具体的な事例を交えながらご紹介していただきます。ご参加の皆様には、普段の業務と照らし合わせて、振り返っていただく機会にしていただきたいと思います。そこには意外と、自分が知らない方法や新しい視点があるかもしれません。
学会当日は、誌面上のDI Provaを実在の舞台上で再現します。まるで本当にBar Provaにいるような感覚で、エキスパートの先生方が実践されている方法を、教授と一緒に聞き耳を立ててみませんか。皆さまのお越しをお待ちしております。

SY3
にも包括に向けた保険薬局の今後
～トレーシングレポートを活用した地域連携～

精神疾患患者が入院主体の治療から地域医療へと移行する中で、これまでの精神科病院及びその関連施設からなる病院－デイケアー訪問看護ステーション－入所施設等によるケアシステムでは、対象患者の増加や高齢化により、その対応が難しくなっており、地域全体で支える地域包括ケアシステムが求められていることはご承知の通りですが、この地域包括ケアシステムの中で保険薬局としての立ち位置を確立していかなければなりません。なぜなら、外来患者は入院患者と同じレベルで薬物療法を提供する必要があり、そのためには保険薬局薬剤師がこの地域包括ケアシステムの中で、医師やその他の職種と密に連携して、その責務を果たすことが重要であると考えるからであります。
本学会地域医療連携推進委員会では、保険薬局と医師の連携の充実を図るために、精神科に特化したトレーシングレポートを作成し公表する予定です。本シンポジウムでは、トレーシングレポートや退院時薬剤情報提供書などを用いた薬薬連携を積極的に行っている先生方をお招きして、にも包括に向けた保険薬局の今後について議論したいと考えます。

SY4
精神科医療におけるIT技術の応用と今後の展望

近年のDXや機械化の進展を背景に、薬剤師業務のIT化は飛躍的に進んでいます。中でも処方せん入力業務、一包化などの調剤業務、薬歴管理業務等はすでに機械によって代替され、参加者の皆様の施設にも導入されていることと思います。近年、新たな分析技術が導入された散薬鑑査システムが発売され、散薬調剤業務の安全性が飛躍的に向上することが期待されます。
また、昨今のコロナ禍の状況により種々の対人業務にもオンライン化を取り入れる動きが急速に進展しています。特に、画像のない電話等を用いた服薬指導について言及した「0410対応」の発出は薬剤師業務に直接関係する内容であり、本来は対面で行われていた服薬指導、コンサルテーション等の業務がオンライン対応可能な時代になりました。しかしながら、精神科医療においては患者への配慮、処方薬の複雑化等からIT化をどこまで推進するのかは議論が必要と考えます。
このような状況から、本シンポジウムでは医療現場、教育現場さらには企業研究者より各立場でのIT技術の応用事例を紹介いただくとともに、今後の精神科領域でのIT活用の展望に関して講演頂きます。多数のご参加をお待ちしております。

SY5
目指せ『精神薬学会認定薬剤師』！

2011年7月、職場でのうつ病や高齢化に伴う認知症の患者数が年々増加し、国民に広く関わる疾患として重点的な対策が必要と判断され、地域医療の基本方針となる医療計画に盛り込むべき疾病として、精神疾患が5大疾患（がん、脳卒中、急性心筋梗塞、糖尿病、精神疾患）の一つとなった。薬剤師法の第1条に、「薬剤師は、調剤、医薬品の供給その他薬事衛生をつかさどることによって、公衆衛生の向上及び増進に寄与し、もつて国民の健康な生活を確保するものとする。」と定められている。薬剤師には、公衆衛生の向上及び増進に寄与する為、精神科に関することを専門とする薬剤師の増員が期待される。
また、公益社団法人　日本薬剤師会の薬剤師の将来ビジョン（日本薬剤師会の要望・提言 ｜日本薬剤師会 (nichiyaku.or.jp)　2023/05/31アクセス）において「薬剤師は、生涯学習を通じてジェネラリストとしての能力を身につけるとともに、より高度な専門性に特化した薬物治療の知識や技能を身につけることも求められる。」「薬剤師が医療チームの一員として専門性に特化した高度な薬物治療の知識や技能を活用し、CDTM(Collaborative Drug Therapy Management)業務への発展をとげるには、様々な薬学や疾病の専門分野で「医療に関する広告が可能」とされるレベルの「認定薬剤師」「専門薬剤師」を輩出する必要がある。」と提言され、「認定薬剤師」「専門薬剤師」取得の必要性について述べられている。
しかし、他の疾患に比して、精神疾患に精通する薬剤師は少ない。本シンポジウムは精神疾患に精通する薬剤師の増員する方法の一つとして開催を計画した。病院薬剤師のみならず、保険薬局の薬剤師の方々にも積極的に参加していただけると幸いです。

【概要】

　精神科臨床薬学研究会（PCP研究会）は、2006年発足時より適切な薬物療法を提案できる薬剤師を目指して、講演と症例検討の二部構成による講習会を開催してきた。症例検討は、より良い薬物治療は何かを考えるトレーニングであり、重要なことはいかに処方提案を行うか、である。臨床で処方提案すべき機会は多い。患者の病態を把握し、医師の処方意図を汲み取り、適切なエビデンスに基づき意見を述べることに苦慮している薬剤師は少なくないだろう。
　コロナ禍を経て、3年ぶりとなる今回の症例検討のテーマは、「うつ病」である。あらゆる視点からより良い薬物治療は何かを考え、大いに意見を述べてほしい。今回のワークショップを通して、医療情報の活用の仕方、一人ひとりの考え方や意見の述べ方など、様々な気づきが臨床現場で活かされることを期待したい。

【概要】

　動機づけ面接（Motivational Interviewing : MI）は、MillerとRollnickが開発した対人援助理論で、患者さんに対して、受容的かつ共感的な応答を行いながら、特定の方向への変化にガイドし、行動変容を促す協働的な会話のスタイルです。MIをうまく活用することで、やる気がないように見える患者さんの動機を引き出すことが可能となり、患者さんとの困るような会話を解消（回避）することもできます。また、MIは依存症の治療をはじめ、他の慢性疾患の治療まで幅広くその効果が認められています。MIは何か特別で難しい技術を持っているわけではなく、その根幹にあるのは傾聴と共感のスキルそのものです。MIを学ぶことは、患者さんのお話の具体的な「聴き方」を学ぶことであり、実践することで患者と関係性をつくり、服薬などの動機づけを高めることに繋がるでしょう。しかしそのようなコミュニケーション技術を学ぶ機会はそれほど多くありません。本ワークショップでは、動機づけ面接≒傾聴・共感の中でも最重要スキルである「聞き返し」を身につけるために、グループワークを重ね、徹底的に練習していきます。

【概要】

　精神科領域の評価尺度について薬剤師が学ぶ機会はそれほど多くはない。しかし、評価尺度を理解し数値による可視化は、臨床現場において多職種間の情報共有にもつながり、チーム医療の強化ツールとして有用である。
　前回と同様にうつ病の重症度を評価するHAM-D（ハミルトンうつ病評価尺度）について学ぶ。講師より評価尺度の解説、また症例を用いながら症状の評価についてグループ検討を行う。本ワークショップは薬剤師が症状の評価を行うことを目的としていない。患者の症状について理解を深め、より臨床的な視点を持ち、さらに一歩踏み込んだ薬学的管理を行うための機会と考える。